レンズが写真の出来栄えに与える影響は少なくありません。
良いレンズをつくっているメーカーは、多少ブランド力が劣っていても正当に評価されます。
プロのカメラマンが欲しいのは良い写真であって、レンズに刻印されたロゴマークではないのです。
キヤノンやニコンといった総合カメラメーカーが提供する純正レンズに対し、レンズのみを提供しているメーカーは「サードパーティ」と呼ばれます。
代表的なのは、シグマ、タムロン、トキナー、カールツァイス。
それぞれ、純正レンズにはない個性的な特徴を打ち出しています。
各メーカーのセールスポイントをいろいろありますが、私なりに一言でまとめれば、
・シグマ=シャープネス
・タムロン=ボケ
・トキナー=発色
・ツァイス=解像度
となります。
カールツァイスを除けば、純正レンズよりかなり格安で購入できます。
そこにもサードパーティの魅力があります。
サードパーティのレンズは、生かすも殺すもカメラマンの腕次第。
貧乏球団でも選手の育て方次第でリーグ優勝が勝ち取れるような魅力が、レンズ選びにはあります(まさに、広島カープのような醍醐味です)。
私はそのようなカープ的な考え方を持った会社(レンズ)が大好きですので、会社に頑張ってほしいという願いを込めて、上記メーカーのレンズはすべて仕事で使ってきました。
それも「試しに使ってみよう」程度の使い方ではなく、かなりハードに使い倒しました。
なかでも、登板回数がいちばん多かったのはシグマです。
シグマは非常に挑戦的なメーカーで、純正レンズのスペックと同等かそれ以上のレンズを開発しながら、しれっと純正の半額くらいで販売してきます。
その心意気が、純粋に「応援したくなる会社」です。
シグマの明るい単焦点レンズは、シャープネスはもちろん解像感も素晴らしく、
オートフォーカスも純正ほどではありませんが遜色なく速いし、手ぶれ補正も十分効きます。コスパの良いレンズの最右翼といえるでしょう。
もちろんシグマ以外でも、個々のスペックだけを比較するなら、純正レンズがサードパーティを明確に凌駕している点はほぼ見あたりません。
けれど、、、結局は純正のほうがいいのかな……というのが今回の結論です。
各メーカーのレンズが、陸上に例えたとしましょう。
たとえばですが、シグマはマラソン、タムロンは高跳び、ツァイスは100m走、トキナーはやり投げ。それぞれの種目で金メダリストです。
ただ、「毎日の撮影現場で必要とされるレンズとは何か」を考えたとき、最も求められるのは彼らのような種目別に金メダルを狙えるレンズではなく、総合的に力を発揮してくれるレンズだったりするのです。
すなわち、高跳びで8位くらいかもしれないけれど、十種競技では金メダルを狙えるキング・オブ・アスリートなレンズ。
そのほうが現場では「使える」のです。
仮に、「明日は人物の撮影だけです」と聞かされていて、それ用のレンズ+αを撮影現場に持ち込んだとしましょう。でも、その場の流れで「ついでに物撮りや町中のスナップも」という唐突なオファーをいただくことは珍しくありません。
そんなとき、人物撮影にマックス威力を発揮するサードパーティのレンズより、なんでも平均以上に撮れてしまう純正レンズを1本持っているほうが、カメラマンとしては失点が少なくてすみます。
マラソンでも100m走でも、一番早くなくともそこそこ速い選手のほうが現場レベルでは助かるのです。
さらに、純正レンズに軍配を上げてしまう点がもう一つあります。
それは「使い勝手」。
仮に性能面では甲乙つけがたい純正対サードパーティの戦いも、使い勝手で比べると圧倒的に純正のほうが勝ります。
「ズームリングの回転方向の違い」は、その一例でしょうか。
本格的な一眼レフカメラにズームレンズをセットした場合、画角を調整するときはレンズについているズームリングを回します。この方向が、じつはメーカーによって異なるのです。
キヤノンの純正レンズで画角を広げるときはズームリングを反時計回りしますが、タムロン、トキナーのレンズは時計回りに画角を広げます。ちなみにやっかいなのはシグマで焦点距離によって両方向に回ります。
そのせいで、さまざまなレンズを付け替えて使っていると、たまに意図した方向と逆の方向にリングを回してしまうことがあります。
最初は、「そのうち慣れるだろう」と思っていました。
たしかにしばらく使っていると慣れてくるのですが、それでも咄嗟の判断で画角を変えたくなったとき、一瞬、手が逆の方向に回してしまうことがあるのです。
これは、「決定的瞬間を逃す」という致命的なミスにつながります。
そのほか、メーカーごとの写真の色味が違ったりするので、同じ仕事でいろいろなメーカーのレンズを頻繁に変えたときには同一の写真でカットにより色ずれが生じます。
ダメ押しでもう一つ挙げるなら、「いざというときに大失敗が起こりにくい」。
これも純正の強みです。
プロというは、いい写真を撮ることも必要ですが、絶対失敗しないということも必須事項になります。ここにアマチュアとの意識の違いがあります。
写真撮影は一瞬の勝負です。
終始動き回る子供や動物が被写体なら言わずもがなですが、比較的動きが少ないと思われる料理の撮影でも、同じように一瞬が勝負です。
鉄板の上に置かれたフィレステーキから立ち上る湯気、飛び跳ねる油。
その「かたち」は刻一刻と姿を変えていきます。
その一瞬を獲り逃したらアウト、というような緊迫した場面がプロカメラマンの現場では毎日のように訪れているのです。
昨今はなんでも「安心・安全」の世の中ですが、私がレンズに求めているものも、結局は安心・安全。一瞬を委ねられる安心感。
それがあるからこそ、価格が倍以上違っても純正レンズには価値があるのです。
実際サードパーティ製のレンズも適材適所でたまに使いますが、結局プロの戦力として総体的にみたとき、私は純正レンズの方に軍配があげてしまいます。
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