写真のプロフェッショナルとアマチュアの差はどのようなところに現れるか?
個人的には、三脚の選び方が最も分かりやすいポイントではないかと思っています。
とくにアマチュアの場合、大きく高価なレンズをたくさん所有しているような人は、傍目にも何となくプロっぽい感じがして、また本人もすっかりそのつもりだったりしますが、こと使用する三脚については無頓着な方が多いようです。
三脚はとても重量のある道具です。そして、とても邪魔になる道具でもあります。
重くてかさばるものを持って移動するのは、それだけで重労働です。
写真を楽しく気軽なスタイルで楽しみたい人にとって、出来れば持ち歩きたくない道具の一つかもしれません。仮に携行するとしても、なるべく軽く、コンパクトなものにしたいのではないでしょうか、特にデジタルの時代は。けれど……。
写真撮影の基本は、被写体を正確にベストのタイミングでとらえることです。
あえて物騒なたとえ話をすれば、それは狙撃とよく似ています。
狙撃したい相手を正確にベストのタイミングでとらえて「殺す」。
デューク東郷のような超A級スナイパーとまではいかなくても、それくらいの心づもりで仕事をこなしていかなければ、プロのカメラマンとしてはやっていけません。
では、相手を狙い撃つ瞬間、狙撃用のライフルを両手で構えただけのときと、ライフルを固定して相手の動きをじっと見定めてからトリガーを引くときとでは、どちらの命中率が高いか。私の経験上、「大物」を仕留める確率が高いのは圧倒的に後者です(むろん撮影シーンで両者を使い分ける必要はありますが)。
いくら性能の良いカメラ、性能の良いレンズを使っていても、シャッターを切るその瞬間、カメラがぶれてしまっては元も子もありません。特にデジタルカメラはブレやすいのです。
「シャッターチャンス」という言葉がありますが、私のように一日中撮影の仕事をしている人間でも、本当に質の高いシャッターチャンスに巡りあえる瞬間は、そう何度も訪れるものではありません。そのチャンスを確実にモノにしてくれるために、最高の瞬間を取り逃してしまわないように、三脚という道具はあるのだと思います。
素材、雲台、使い勝手、耐久性、耐荷重性など、三脚選びのポイント、チェックすべき箇所は多岐に渡ります。ただ、三脚は少々手荒に扱っても簡単に壊れる道具ではありませんから、多少高価でも思い切って質の高いものを購入しておけば、ほぼ一生使えます。
逆にいえば、カメラ本体はもちろん、撮影用の周辺機器はテクノロジーの発達とともに定期的に買い換えを余儀なくされますが、三脚だけはカメラマン人生の苦楽を共にしてくれる良き相棒になります。なるべく、愛情を注げるものを選びたいものです。
以下、私の古い戦友をご紹介します。
世界初のジュラルミン製三脚
ハスキー(HUSKY)クイックセット4段(軽量短尺の2段、3段もあり)
開脚総伸長244センチというこの三脚を、プロとして働き始めた頃から使っています。
サイズこそ大きくて重量感はありますが、ジュラルミン素材なので見た目ほど重くなく丈夫です。
そうはいっても大きくてそれなりに重く機動力は落ちるますので、この三脚は特に大物を仕留めるときに使います。
雲台(カメラを固定するところ)がしっかりしていることに加え、パン棒と呼ばれる棒を回してカメラの固定位置を変える際の操作性が抜群です。
自分がイメージした位置に軽い力で完璧に固定できる。
これはハスキー(元・米国、現・日本)というメーカー独自の仕様で、他社製品ではこのトルク感からくる絶妙な手先の感覚は味わえません。
個人的には、信頼度では三脚の雲台はこの製品がベストだと思っています。
そして私の経験上、「腕利きのスナイパー」ほどこのメーカーの三脚を所有している確率が高いです。
もし、あなたがプロのカメラマンと仕事をする機会があるなら、なにげなく「三脚は何を使われていますか?」と聞いてみましょう。
「ハスキー」と返ってきたら、まず間違いありません。
世界初のカーボンファイバー製三脚
ジッツオ(GITZO)三段 G1329 + ハスキーの雲台(変則使用)
ジッツオは世界で初めて写真用カーボンファイバー三脚を製造したメーカーです。
その堅牢性、軽量性、信頼性が高いため、三脚の最高峰といえます。
カーボン製はジュラルミン製より高額ですが、軽くて強度があるため素材としては申し分ありません。ハスキーの三脚ほど大きくなく、そこそこコンパクトサイズで軽量、これだけで特にロケなどの仕事はほぼまかなえます。
ただし、雲台は純正の使用感がベストではないので、ハスキーの雲台を装着しています。
つまり、脚はコンパクト軽量タイプのカーボン素材、雲台は少し重量は載りますがトルク感がベストなハスキーという組み合わせです。
これはかなり高額になりますが、私にとって最強の組み合わせといえます。
10年以上使用していますが、この三脚はいい仕事をしてくれました。
私がいまでもカメラマンとして仕事を続けていられるのは、特によく使うこの2つの三脚のおかげだと言っても言いすぎではありません。三脚とは、カメラマンの人生に寄り添い、カメラマンの生命をつないでくれる、じつに尊い存在なのです。
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