あなたの知り合いにカメラバッグを持っている人がいるとしたら、その人は確実にカメラマニアな方でしょう。
普通の人はバッグのなかにカメラをポンッと放り込むだけ。
交換用のレンズを1本持っているやや本格的な人でも、カメラ専用のバッグにわざわざレンズを収めるなんてことはあまりしません。面倒くさいですからね。
ただし、これがプロのカメラマンになると話は別。
バッグなしでは仕事になりません。
カメラバッグは大きく3種類に分けられます。
・肩にかける「ショルダー型」
・背中に背負う「リュック型」
・キャスターの付いた「キャリーバッグ型」
ほかにも、ウエストバッグ型やポーチ型のような小ぶりなものもありますが、これは主にアマチュア向けの小容量タイプで本格的な使用には不向きです。
私は長い間ショルダー型のバッグを使ってきました。
片方の肩にかけるだけなので持ち運びが簡便、機材もすばやく取り出せます。
最大の利点は、もう片方の肩があくこと。
あいた肩にはライトスタンドバッグをかけて移動します。
ライトスタンドバッグとは、プロカメラマンに必須の照明用のスタンドを収めるバッグのことです。
右肩にカメラバッグ、左肩にライトスタンドバッグというスタイルで、ビジュアル的にも「いかにもカメラマン」です。
ただ、このスタイルで何年も移動を繰り返しているうちに、私は腰を悪くしてしまいました。
カメラバッグ約10-15㎏、ライトスタンドバッグ約5-8㎏という重量差のせいです。
この倍の重量差のある物体を何年も同じ肩にかけ続けていると、筋肉も骨格も左右のバランスが崩れて、ついには腰痛に悩まされるようになったのです。
「だったら、今日は右肩、明日は左肩というふうに交互に使い分ければよいではないか」と呆れられそうですが、これが意外と難しい。
人間は無意識のうちに利き腕を多用する生き物ですから、頭では分かっていてもつい利き腕で重いものを持ち上げ、そのまま肩にかけてしまいます。
悪循環ですが、利き腕のほうは長年培われた強靱な筋肉がついてしまっているから、
ようは楽なのです
”これ以上ショルダー型を使っていたら身体がボロボロになる”。
ショルダー型バッグを2周まわって15年ほど使い続けた結果、私はそんな結論に至りました。
「次に買うカメラバッグは、身体への負担が軽いものでないとダメだ」。
私がキャリーバッグ型に移行したのは、当然の成り行きでした。
皆さんも長期の旅行に行かれるときは、キャスターの付いたスーツケースを使われると思います。
しかし、いざ使い始めてみると、キャリーバッグ型には2つの欠点があると判明しました。
1 地面はいつも平らではない
2 カメラがジャブを打たれつづける
キャスター付きスーツケースをお持ちの方ならお分かりでしょうが、キャスターというのはいつでもどこでもスムーズに転がってくれるわけではありません。
むしろ、しょっちゅう地面の凸凹に引っかかっています。
駅や空港といった整備が行き届いた施設ならまだしも、アスファルトで舗装された道路に1歩でも踏み出した瞬間、途端に地面に引っかかり、跳ね上がり、バッグが踊り始めます。
いっそ、手で持って歩いたほうがラクなくらいです。
とはいえ、もともと持ち歩きを前提につくられたデザインではないので、ちょっと持っているだけですぐに腕はパンパン。
とくにそれを痛感するのが、“段差の王様”階段に出くわしたときです。
15㎏の重量物を持ち上げ1段1段上っていく階段は、苦行以外のなにものでもありません。
屋外での撮影になれば、都合よくエレベーターがある場所もほとんどなし。
「世の中は全然バリアフリーじゃない!」
キャリーバッグ型を使い始めて、つくづく思い知らされました。
そして、車椅子を利用されている方の苦労が身にしみて分かりました。
もう一つ。
私を不安にさせたのが、移動中絶え間なく繰り返されるカメラボディへの振動です。
「The 精密機械」であるカメラに、決して小さくはない振動が移動のたびに与え続けられるのはいかがなものか。
いくら堅牢につくられたカメラといえども、毎日ジャブを喰らい続けていれば、いつかはパンチドランカーになります。
その症状が撮影現場で発症したとしたら。
われわれプロカメラマンにとって、「機材の調子が悪くて撮影できません」は決して口にしてはならない禁句です。
キャリーバッグ型は、私に精神的なダメージも与え続けました。
そして腰は、ショルダー型を使っていた頃よりさらに悪化していました。
"リュック型は腰に優しい"
というわけで、最後にたどり着いたのがリュック型です。
ショルダー型、キャリーバッグ型の欠点をリュック型は見事に補ってくれます。
・両肩へバランスよく負荷がかかる
・地面の凸凹も移動に関係なし
・腰への負担も軽い
唯一の弱点は、機材を積みこむ容量がやや小さいことでしょうか。
大容量のリュックもありますが、それだとやはり腰にきます。
しかし、ものは考えようで、容量が小さいということは必要な機材をコンパクト化する良いきっかけになります。
デジタルになって、なおさらそれが可能になりました。
さらに軽量な道具や機材に注目するようになり、工夫次第でそれなりに軽量化できます。
私はそのために通常プロが使うフルサイズのカメラではなく、あえてAPSCのカメラ、ミラーレス、レンズ共に軽量な機材をメインで使っています。
ひいてはそれが、カラダへの負担軽減にもつながります。
カメラマンという職業はカラダが資本。
身体に負担をかけない移動スタイル、撮影スタイルこそ、長期的に見れば撮影というパフォーマンスを最大化させる唯一の方法といえます。
「カメラバッグは腰への負担が軽いものを選ぶべし」。
これが、25年以上にわたり10㎏以上の鉄のカタマリを運び続けた私の結論です。
容量の大小や機材の出し入れのしやすさなど、二の次で構いません。
15㎏程度の機材なら、リュック型のほうが断然移動がラクチンです。
TENBA P895モデル(廃盤)
ショルダータイプの名品
報道のドンケ、フリーランスのテンバと言われ、カメラバッグの双璧を築いたメーカー。
ドンケに比べ、このテンバはクッション性や防水性が高いのが特徴。
フィルム時代のモデルで現在はもう廃盤だが、今でもPCを入れても最高レベルの収納力。2周まわって15年使い倒してもまだまだ使える丈夫さ。現行のモデルより古いタイプの方が使い勝手、素材、収納力ともに品質が高い。
このバックで雨風に打たれながら、皇太子結婚パレードからロバートデニーロまで様々な撮影を手助けてくれた戦友。若ければずっと使っていたい相棒。
think TANK photo
エアポート・ローラーダービー
キャリーバッグタイプ
2輪もありますが、4輪のほうがオススメ。
両方向移動できる利点と地面がよければ軽い力で押しもできるのがかなり楽。あとこのサイズは空港で機内持ち込みのサイズにジャストなこと。基本機材は預けられないので、この収納力で機内持ち込みできるサイズに収めたのは見事。欠点はストッパーがないため坂で手を離すと勝手に動くこと。キャリータイプでは3周まわって私の中でこれがベスト。
このバッグで世界10カ国ほどを渡り歩いた相棒。
HAKUBA GW-PRO G2 16L リュックタイプ
現場でよく編集者からカメラマンなのに軽装備ですねと言われるリック。
特徴は小ぶりな割に収納力が高くPCやレフ板なども入り必要最低限の機材は収納できる。さらに周囲を丈夫なワイヤーで覆われており衝撃に強い構造になっていることもプロにとっては重要(このサイズ感、価格では他にはない仕様)。素材など細部にわたりプロのかゆいところに手が届く構造でコストパフォーマンが高いのもうれしい。電車やバス、階段など敬遠しがちな移動手段を選べるようになり移動時間の短縮、経費の節約などにも貢献。一見いかにもカメラバックに見えないところも◎。デジタル時代な昨今、機材も軽量、コンパクトになり大型機材を必要としないほとんどの撮影を共にしている現役の相棒。
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